テーブルトップオーダーを導入したとき、見えていたのはメリットだけでした。
お客様が自分のタイミングで注文できる。伝票の書き間違いが消える。ホールを走り回る回数が減る。レジとも連動しているので、会計まで一直線です。
60席・20卓の店に、予備を含めて23台のiPadを並べました。しばらくは、思ったとおりに動いていました。
問題が起きたのは、そのあとです。
ある日を境に、注文がキッチンに届かなくなった
きっかけになる出来事は何もありませんでした。ある日から、注文が飛ばなくなった。
厄介なのは、エラーが出るタイミングが読めないことです。
お客様のタブレットには「注文済み」と表示されている。ところがキッチンには何も出ていない。代わりにプリンターがエラー用紙を吐き出し続けます。
一度始まると、軽く1時間以上止まりません。その間、注文が1件も入っていなくても紙とエラー音だけが出続ける。
そして症状が出るのは、決まって回線が混み合うピークタイムでした。一番忙しい時間に、一番使えなくなる。
「これ、注文入ってますか?」と聞いて回る店
実害はシンプルです。提供遅れ。
お客様は注文したつもりでいる。こちらには届いていない。この食い違いに気づくのが遅れるほど、待たせる時間が伸びます。
やっていたのは、こういうことでした。
- 客席を観察して、タブレットを操作した卓を目で追う
- 注文が入った形跡がなければ、テーブルまで行って確認する
- 流れていなければ、その場でハンディから打ち直す
これを、ほぼ毎日やっていました。
省人化のために入れたシステムのせいで、人が張り付いて監視するという逆転が起きていた。エラー音を聞くたびに、フロアの空気が固くなっていくのが分かりました。
犯人は、タブレットではなかった
最初はもちろん端末を疑いました。台数が多いので、どれか1台が悪さをしているんじゃないかと。
違いました。原因は店の回線です。
導入した時点で使っていたのは、コンセントに挿すだけのホームルーター(5G)でした。工事不要で、すぐ使える。導入の手軽さでは優秀です。
ただ、そこに23台の端末がぶら下がる。しかもピークタイムは店の外でも回線が混む時間帯です。オーダーシステムの負荷に耐えられていなかった、というのが結論でした。
タブレットの性能でも、アプリの出来でもない。土台のほうが足りていなかった。
光が来るまで8か月、毎日コンセントを抜いていた
本部に光回線の要望を上げました。開通まで、8か月かかっています。
その間、現場でやっていた対策がこれです。
- 営業開始前に、ルーターのコンセントを抜いて挿し直す
- 営業終了後にも、同じことをする
- それでもエラーが出たら、客席の観察とハンディでしのぐ
混線をリセットするための儀式みたいなものです。効いていたのかどうかも、正直よく分かりません。それでもやらないよりマシだと思って、毎日続けていました。
現地調査は2回、工事は3回。要望から開通まで、それだけの回数が必要でした。
止まっていたのは、10年前の配線図がなかったから
なぜ8か月もかかったのか。理由を聞いて、拍子抜けしました。
建物の配線がどうなっているか、誰も分からなかったからです。
- 建物は築10年以上。ADSL回線が地下に引き込まれていた
- その回線を使って工事をすると、費用が跳ね上がる
- では外から新しく引けるか、を調べることになった
- ところが店舗内の回線配置図が存在しない
- 外と店舗がどう繋がっているのか、現物を追うしかない
配線の処理の仕方自体もかなり雑だったらしく、確認作業だけで時間が溶けていきました。10年以上前の物件では、珍しくない話だそうです。
外から引くとなれば建物の外壁工事になります。最初はそこを避けたかったんじゃないか、というのが僕の推測です。確かめたわけではありません。
工事費は30万円かかりました。これは僕が負担しています。
ひとつ、いまだに分からないことがあります。同じ建物の他の店はどうしていたのか。聞けていません。
タブレットを入れる前に、見ておくべきだったこと
光が開通してからは、障害は完全になくなりました。快適です。オーダーシステムもそのまま使い続けています。
システムが悪かったわけではなかった、ということです。
ただ、順番を間違えました。導入前に確認しておくべきだったのは、機能でも料金でもなく、こっちでした。
- その回線に、端末が何台ぶら下がるのか
- ホームルーターや簡易ルーターで足りる規模なのか
- ピークタイムに耐えられるのか(空いている時間に試しても意味がない)
- 建物の配線図があるか。なければ工事の見積もりも工期も出ない
- 工事が必要になったとき、誰が費用を持つのか
もうひとつ、導入してから知ったコストがあります。端末の電源です。
バッテリー運用にすれば配線は不要ですが、劣化するので交換が要る。ランニングコストとして効いてきます。かといって常時給電にすると、今度は各卓まで電源を引く工事が必要になる。23台分です。
比較サイトに並んでいるのは月額とレジ連携と機能一覧です。回線も電源も、そこには出てきません。
それでも導入してよかったかと聞かれたら
よかったと答えます。いまは快適に動いていますし、戻す気もありません。
ただ、これから入れる人には順番を伝えたい。システムを選ぶ前に、店の土台を測ってほしい。
導入を決めるとき、僕が見ていたのは端末とアプリでした。見るべきだったのは、天井裏と地下です。
便利な仕組みほど、土台の弱さをそのまま増幅します。うちの場合、その増幅装置が23台ありました。
ちなみに、この記事はオーダーの話ですが、注文と会計はまったく別のレイヤーです。そちらで気づいたことはレジの月額15,400円より、気づかず払っている手数料のほうが高かったにまとめています。